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NZフィッシングレポート(トランピングアングラー編)

河合 彰一郎

ニュージーランドで誰もが楽しむ国民的スポーツといえば“トランピング”。 てくてく歩く、徒歩で旅行するという意味のTRAMPが語源で、自然のなかを歩き回り動植物を観察したり、周辺の景観を楽しむレジャーと考えれば理解しやすい。 国内にある主なトランピングルートは、自然保護省(DOC=Department of Conservation)によって管理、運営されていて、遊歩道、標識、宿泊施設に至るまで、実に行き届いた整備と配慮がなされている。

日帰り軽装で楽しめるものから、走破に4~5日、本格的なトレッキングの装備が必要なものまで、ニーズ、レベルに応じた数多くのトラックがあるが、ミルフォード・トラック、トンガリロ・クロッシング、エイベル・タスマン・コースト・トラック、ルートバーン・トラックなどが代表的。 特に“世界一の散歩道”と形容されるミルフォード・トラックの人気は高く、ベストシーズンの夏季には、山小屋の予約は早々にうまってしまうほどである。

さて、なぜトランピングの話から始めたかというと、勘の鋭いフライフィッシャー諸氏であればもうお察しの通り、こうしたトラックの多くは、山岳地帯を流れる“マウンテンストリーム”への絶好のアクセスルートになっていて、 その気になれば、ルート上にある山小屋に泊まりながら流域を釣り歩くことも可能、我々釣り人にとってもその利用価値は大きいのだ。

実際、バックパックの両脇にロッドケースを差し込んで、トラックを颯爽と歩く“トランピングアングラー”の姿はあちこちで見かける。

僕がよく足を運ぶボイル・リバーも“トランピング&フィッシング”が楽しめる川の一つ。 総延長70kmにおよぶセント・ジェームス・ウォークウェイが川に沿うように走っていて、ルート上の何処からでも容易に入渓できる。 豊かな森の中を縫うように川が流れる景観は、何処となく東北の渓を彷彿とさせるところがあって、そこには岩魚ならぬブラウン・トラウトが生息している。 ブラウンは棲む環境によって個体差が大きく、ここのは斑点が多く朱点が鮮やかなのが特徴だ。 豊富な雪解け水に磨かれ引き締まった魚体は、思わず見とれてしまうほど美しく、これに出会えるのであれば、長時間のトレッキングも苦にならない。 そして、世界中からやって来るトランパー達と過ごす山小屋の夜は会話の弾む楽しいひと時であり、まだ見ぬポイントを目指して、上流へ上流へと釣り上がる感覚はちょっとした探検気分で、トランピングアングラーだけが味わえる醍醐味である。

トランピング&フィッシングのベストシーズンは12月~2月。 ウェーダーの代わりにトレッキングシューズとタイツ、背中には2、3日分の食料や衣類、スリーピングバッグが楽に入る50~60リットルのバックパックというのが、夏仕様のトランピングアングラーのスタイルだ。 それから、NZの山や川を歩く際に、日焼け止めと主虫除けは必携。 この時期、紫外線が特に強く、河原ではサンドフライが発生する。 日本のブヨに似たこの虫は、大群で押し寄せてくるうえ、一度さされると痒みと腫れが数日間続くなんとも厄介な存在である。

僕はサンドフライ対策として、数種類の虫除けを持参したが、結局のところエイペックス・グローバル・ヘルスケア社(NZ)のInsectRepellent&Sunscreenに落ち着いた。 サンドフライ除けに効果絶大で、その名の通り日焼け止めの効能も併せ持つ優れ物である。 こちらにあるほとんどの釣具店、アウトドアショップで扱っているので、NZ釣行の際は是非お試しあれ。

サンドフライ以外にも、夏の川岸では多くの昆虫が見られるようになるが、その一つがNZ特産の草蝉。 体長1~2cm、透明な羽にメタリックなボディーを持っていて、体色、体型の微妙に異なる数種がある。 ブラウンはこのセミが大好物で、普段は淵の底近くに定位して小さなニンフにしか反応しない大型も、この時期だけは、水面を流れる大きなドライフライにも果敢にアタックしてくる。 川岸を歩いていて、足元からたくさんのセミが飛び立つような状況に遭遇したなら、その日の釣りが楽しいものになるのは約束されたと言ってもいい。

フライボックスには#12~#8のシケーダパターンとハンピーだけで十分。 ここぞと思われるポイントだけに絞って、トランピングルートと川を行ったり来たりしながら、ブラインドフィッシングで軽快に釣り上がるのが真夏のマウンテンストリームの釣りだ。

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何処となく東北の渓流を思わせる流れ。 ここでの主役は岩魚ではなくブラウン。

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このブラウンは、大きなプールの真ん中に浮かせた#8のシケーダフライを、派手な水しぶきとともに捕らえた。

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これが草蝉。 どこからみてもいっぱしのセミである。

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ルート上の所々にはスイングブリッジが架けられていて、対岸へ渡るための重要な手段となる。

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さらなる上流を目指して、何処までも釣り上がる。ちょっとした探検気分。

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