北海道の河川の現状
北海道支部長 小澤 裕治
北海道には淡水魚が約60種類生息している。 そのうち、海に降りない淡水魚はわずか6種類ほどである。 淡水魚のほとんどは海に降下し、再び海からのミネラルを内陸まで運ぶ。
これが、地球上のすべての河川に対して、地球に誕生した魚に課せられた生命の役割なのである。 長い年月、魚遺伝子に継承され、繰り返し行なわれてきた海と河川との行き来は、その重要性が科学的にも証明され、魚の役割の大切さが今、問われだしている。
北海道の開拓が本格的に始まってから100年。 そして戦後60年。 道民のより良い生活を支えるという大義名分の政策が、今や取り返しがつかないほどに大地を傷つけてしまった。 長い地球の歴史から見ればつい最近まで、我々の祖父の時代くらいまでは、日本本土も北海道も河川は本来の川の姿を保っていた。 それが戦後の食料確保と日本の基盤産業を保つため、北海道にある1,488本の河川のほとんどに人口工設物ができ、世界遺産に登録された、かの知床半島にも砂防ダムが山のように作られた。
同様に、北海道ではサケの放流事業は官が行なってきたが、今は民間に変わりつつある。
それまでサケ・マスの資源保全に補助金の名目で我々の税金がふんだんに投入されてきた。
しかし、祖先の時代のように、自然に人工的な手を入れず、それこそ「遡上するサケで棒が倒れなかった」というたとえ話があるように、現在もその状況が続いていれば、どれだけ税金の無駄遣いが防げたであろうか。 ましてや二酸化炭素による地球温暖化などを考えても、ずいぶん無駄を繰り返してきたものである。
サケの放流は官から民に移ったとは言え、北海道ではサケ・マスに頼る漁業者とは違い、釣り人は河川ではサケ・マスを釣ることはできない。 確かに最近、北海道スポーツフィッシング協会、釣振興会の努力によってどうにか風穴を明けることができた。 このことには釣り人の1人として心から感謝している。 それでもなお、北海道には釣りたい魚を放流してくれる河川漁業組合は皆無に等しい。 まま、湖沼にはそうした組合があるのに残念である。いきおい釣り人が自ら先頭に立って、何らかの活動をせざるを得ない。そこで、自前で孵化場を作ることとなった。
現在、我々のクラブで、室内でサケの孵化を試みている(写真参照)。 もちろん野外でも孵化の研究を行なっている。 当然、サクラマスも野外で孵化が行なわれている。ただ、こうした地道な作業を行なっていても、 砂防ダムや堰堤で海と通じていない河川では、親のサケ・マスが遡上できず、稚魚を放流しつづけなければならない。 こんな河川が当たり前なのが北海道なのである。 しかも、稚魚の放流事業も市町村の釣のイベントとして何十年と続けられ人を集めていたが、市町村財政が行き詰まり、中止が相続いているのが現状だ。
現在もっとも大きな問題となっているのがサンル川のダム建設である。 このダムは今日本中で問題になっている他のダム建設と同様に、100年に一度あるかないかと言う洪水のために建設を予定されているが、仮に洪水が起きても、現在ある堤防に20センチかさ上げすることで十分対応できる数値なのだ。 しかし、ダムを建設することで、国から何百億円ものお金が落ちることも事実である。 地元民にとって見ればのどから手が出るほど欲しいお金である。 しかし、その見返りに自然を破壊していいのだろうか。 一度破壊した自然は元に戻らないのである。 この資金をダム建設ではなく、もっと他に地元が恩恵を受けることができるよう、何とか活用することはできないだろうか。 我々が生まれる前から、地球の営みの中で、サクラマスがはるか海から何百キロもの道を遡上してくる自然の川に、ダムなどは不要なのである。
北海道支部会員の土佐氏の、ご両親が経営している下宿屋の空いている一室を孵化場として使用している。
毎年、5,000粒のサケの溌眼卵を、孵化の専門家も驚く100パーセントに近い孵化率で成功させている。
本人は鼻高々であるが、ご両親はあまり歓迎していないご様子。それでも気になるようで、時々中を覗いているとか。
自家製孵化器:野外の孵化ではサケ・マスの魚種にかかわらず、他の捕食生物から守るために、ペットボトルに細かい穴を開けて川底に埋設する。