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NZフィッシングレポート(ホキティカ編)

河合 彰一郎

南島のウエストコーストにある人口4000人足らずの小さな町ホキティカ。 ニュージーランド特産のJADE(翡翠)の産地であることと、毎年3月に行われる“WILD FOOD FESTIVAL”の開催地ということで、それなりに名は通っているけれど、それ以外にはこれといって何があるわけでもない、静かな田舎町である。 北にトランツアルパイン鉄道の終着駅となるグレイマウス、南に氷河観光の拠点となるフランツジョセフがあって、観光客のほとんどはこのどちらかに行く途中に、休憩がてらこの町に立ち寄るのがもっぱらである。 僕がタウポを離れホキティカに移ったのは昨年12月初旬のこと。 友人が経営するバックパッカーホステルの、クリーナー&レセプショ二ストを引き受けることになったのがきっかけだ。 過去に何度か、このホステルに宿泊したのが縁で今回の運びとなったのだが、こと釣りに関しては、NZに住む釣り友達の間でさえ、ホキティカ周辺の河川、湖について話題にすら上がったこともなく、まったく期待していなかったのが本音である。 ところが実際は、スプリングクリークのブラウン、湖のパーチ、汽水域のシートラウトまで、存分に満喫することになった。

ニュージーランドという国は、イギリスからの移民と一緒にいろいろなものが本国から持ち込まれている。 それは、スポーツ、文化から動植物に至るまでとどまるところをしらない。 TVでは、クリケットとラグビーの試合がひっきりなしに放映され、道を歩いていて目にする手入れの行き届いた英国式庭園からは、国民のガーデニングへの並々ならぬ情熱が伝わってくる。 さらに、街のアンティークショップを覘けばハーディーのリールが見つかるし、多くの河川には見事に定着して大型化した、ブラウントラウトが泳いでいるのである。 (※NZのブラウンはオーストラリアのタスマニアから移植されているので、イギリスからタスマニア経由で持ち込まれたと考えるべきであろう)

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 レイク・カニエレ パーチの他にブラウンも生息している

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 これがパーチ。
 思っていたよりも華麗で野性味に溢れる風貌である

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 典型的なウエストコーストのスプリングクリーク。
 遠くには夏でも雪を頂く、サザンアルプスの山並みが見える

移植された魚はもちろんブラウンだけではなく、アトランティックサーモン、コイ、テンチ、パーチなども含まれている。 僕としては、イギリスの多くのフライフィッシャーに愛されている、グレーリングがなぜ移植されなかったのか不思議でならない。 移植したのにうまく定着しなかったのか、まったく持ち込まれなかったのか、当時の養殖、輸送技術の問題なのか、詳しく調べてみると面白い事実がわかるかもしれない。 話が脇にそれてしまったが、移植された魚の中で特に興味を引かれたのがパーチである。 一般にはヨーロピアンパーチ、レッドフィンなどと呼ばれていて、実は日本でもペットショップで普通に目にすることができる。 僕がこの魚を初めて見たのは、かれこれ20年以上も前のことで、オレンジ色に染まった各ヒレと、背中から腹部に向かってはいる縞模様が印象的であった。 そのパーチが、ウエストコースト周辺の湖に数多く生息していて、釣りの対象となっていることは以前から知ってはいたものの、ウエストコーストというと、60cmアップのブラウンが釣れるグレイ・リバー水系に、どうしても足が向かってしまい、今日の今日まで後回しになっていたのだった。 場所は僕の滞在しているホステルから、車で30分程の距離にあるレイク・カニエレ。 周囲をブッシュと森に囲まれ、浅瀬には水草が生い茂っていて、いかにもパーチが好みそうなロケーションである。 この湖は透明度が高くなく、魚影を探して釣り歩くには効率が悪い上、キャスティングのためのバックスペースがとれる場所も限られるので、まずは湖に一つだけある桟橋から釣ってみることにした。 波もなく穏やかな水面には、魚のライズらしきものは全く見えないので、ラインをタイプIのシンキングに換え黒のウーリーバガーを結んだ。 そして、30分も経っただろうか。 そろそろ場所を変えようと思い始めた矢先に、コツンと小さいながら明確なあたりがあった。 魚がそれほど大きくないのはすぐにわかったが、慎重にやりとりし引き寄せてみると、それは紛れもなくパーチであった。 体長約25cm、まだまだ小学生サイズであるけれど、初めての魚は大きさに関係なくうれしいものである。 どうやらこの魚、群れで定期的に回遊する習性があるらしく、この後20~30分間隔で、連続的なあたりがあって10匹程釣ることができた。 街の釣具店に飾ってあった剥製は50cmを超える見事なもので、これに会うためにここへ通うのも悪くないだろう。

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 スプリングクリークに棲むブラウンは、どことなく優しい顔立ちをしている。
 感謝を込めてそっとりりース

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 日本のどこにでもありそうな風景であるが、ここがシートラウトの1級ポイント(ホキティカ・リバー河口部)

さて、肝心のトラウトはというと、写真を見てもらえばもうお分かりの通りである。 僕のホステルでの仕事は、朝9時から12時まで庭やゲストルームの掃除をするか、夕方4時から7時半まで受付に座るかのどちらかである。 ちょうどその日は受付を担当することになっていたので、早朝から近くにあるスプリングクリークを探索に出かけた。 この川はホキティカ・リバーの本流に注いでいて、以前に車で通りがかったときは、雨後の濁りで魚影は確認できなかったものの、釣り人の勘からイケルと直感した場所である。 橋の手前に車を停めて注意深く水中を覗いてみると、流芯に2匹、水草の陰に1匹の魚影を確認できた。 しかも流芯にいるうちの1匹は、水面近くで何かを盛んに捕食していて、右に左に絶えずポジションを変えている。 早速準備にとりかかって、10mほど下流に回り込んで狙ってみることにした。 川幅は狭いところで4m、広いところでも7mあるかないか、水深は流芯で1.2mほどであろうか。 岸に沿ってブッシュが密生していてなかなかキャストしずらいが、3度目で魚の1m程上流にフライを落とすことに成功した。 そして、その後はまるでスローモーションを見ているかのように、そのブラウンはゆっくりと吸い込むようにフライを捕らえた。 ティペットは6X、無理はできないので慎重にやり取りしていると、下流から1匹の魚が泳いでくるのが見えた。 60cmは優に超えているだろうか。 体長からすると小さめの頭に盛り上がった背中、銀色に輝く鱗は海から遡上してきたものに間違いない。 その魚はあっという間に目の前を通り過ぎ、上流へと姿を消してしまった。 この日はいたるところでライズが見られ、マッチング・ザ・ハッチの釣りを満喫したのであったが、目の前を泳ぎ去ったシートラウトの姿が頭から離れることはなかった。 NZにきて以来、こちらの釣り雑誌は度々購入していたが、その中に登場するシートラウトの姿は圧巻で、いつかは釣ってみたいと思っていたのだ。

ホキティカの町は、ホキティカ・リバーに沿うように開けていて、中心部から西へ10分も歩くと河口に行き着く。 そこは“サンセットポイント”と呼ばれ、その名の通り、水平線に沈みゆく夕陽を見るための観光スポットになっている。 そして、僕が72cm・6kgのシートラウトを釣ったのがまさにその場所。 単にアクセスの良さからこの場所を選んだのだが、まさしくそこは穴場中の穴場であった。 釣れる魚はどれもが70cm前後、5kgは下らないものばかりで、満潮の前後2時間を狙って釣行すれば必ず何らかの反応があり、ある時などは2時間で3匹の釣果があった。 シートラウトなど10回通って、1匹でも釣れてくれれば御の字くらいに考えていたので、この魚影の濃さは驚きであった。

ニュージーランドにも、発電や飲料水用の大規模ダムはいたるところにあって、この点ではかの国とあまり変わりがないけれど、川を細切れに分断するような堰堤などは皆無である。 そのため、川原を歩いているとウナギやボラ、シラウオやカレイ、カニやエビなど、川と海を行き来する多くの生き物を目にする。 ブラウントラウトがどういった経緯で、海へ降りシートラウトとなるのか詳しいことは知らないけれど、川が自然界の中で正常に機能していることの、一つの証明であることは間違いない。 日本も不要な堰堤を取り壊して、川の機能を回復させる公共事業を始めれば、ヤマメがサクラマスとなって戻ってくるはず。 そして、これは釣り人だけの利益にとどまらないのは明らかである。 そういった日がくることを願ってやまない。

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 僕のNZでのベストフィッシュ(72cm/6kg)
 力強い突進を何度も繰り返し、ランディングまでに30分以上かかった。
 忘れられない一匹

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